健康

人工股関節置換術から1年2ヶ月——迷いと決断、そして発表会

術後7〜8ヶ月:ビギナークラスにーそして揺れる気持ち

手術から半年を過ぎた頃、ようやくバレエのビギナークラスに移りました。

最初は恐る恐る。体がどこまで動くかわからないまま、少しずつ慣らしていく日々。それでも、バーに手をかけてバレエシューズを履いている——その事実だけで、十分すぎるくらい嬉しかった。

一方で、焦りも生まれていました。

リハビリに通える期間は5ヶ月間と決まっています。「もっと通いたい」「もっとほぐしておきたい」という気持ちと、「でも、時間には限りがある」という現実。少しずつカウントダウンが始まっている感覚がありました。

そんな時期に、先生から声をかけていただきました。

「発表会があるんだけど、出てみない?」

最初の返事は、迷わず「いいえ」でした。

術後1年も経っていない身体。そして、乳がんで左胸を全摘していること。
体への不安は、正直まだ拭えていませんでした。
「バレエに戻れただけで十分。発表会なんて、まだ先の話」——そう思っていたのです。

でも、日を重ねるうちに、ふと気持ちが変わっていきました。

何とかバレエに復帰できた。それだけでも、本当にありがたいことじゃないか。

術後1年の記念に、ステージに立ってみてもいいかもしれない。

大きな決断ではありませんでした。でも、小さな「なぜかそんな気がする」という感覚を信じて——参加することにしました。

術後10ヶ月:「なんか、おかしい」


発表会のレッスンが始まり、練習に熱が入るにつれて、左腰に妙な違和感を感じるようになりました。最初は「筋肉痛かな」と思っていたのですが、カンブレ(上体を後ろへ反らす動き)をしたときにはっきりとした痛みが出るように。

首の調子も悪い。

鍼灸に行きました。家でもストレッチをしました。でも、改善しない。

「これは自己流ではもう限界だ」

思い切って、バレエの先生が通っている整形外科を紹介してもらい、受診しました。

診ていただいたPT(理学療法士)の先生に言われた言葉が、今も耳に残っています。

「股関節周りの外旋筋群と内旋筋群が、ガチガチに凝り固まっています。動きを邪魔しているところを無理に使おうとしているから、腰に負担がかかっているんですよ」

原因がわかって、少しほっとしました。同時に「そういうことか……」と。

とにかく、まずはほぐすことが最優先。しばらく通院することになりました。

術後11ヶ月:右と左で、こんなに違う


リハビリ通院が3回目になった頃のこと。

右足は、ほぐしてもらった後に「ああ、少し軽くなったかも」という手応えを感じ始めていました。でも、左足は逆。リハビリの後に、むしろ痛みが増した感覚があって。

デガジェ・デリエール(脚を後方へ伸ばして床を擦る動き)をすると、内転筋から膝のあたりまで痛みが走りました。

右と左で、こんなにも違うものか。

両足とも人工関節を入れているのに、体の反応がこれほど異なるとは思っていませんでした。「体は左右対称ではないんだな」と、改めて実感した時期です。

発表会の振り付けはこの頃に終了し、これからは細かい注意事項を詰めていく段階へ。
練習の密度が上がっていきました。

術後1年:「1年くらいはかかります


術後1年のタイミングで、PTの先生からはっきり言われました。

「内転筋の硬さは、なかなか手強いです。1年くらいはかかると思ってください」

そして、もうひとつ。

「両股関節が人工関節の場合、頑張っても最大可動域は120度が上限です」

今はまだ90度前後。120度はあくまでも「いつか到達できるかもしれない上限値」であって、現時点ではそこにも届いていない。

これは、頭ではわかっていたことでした。でも、改めて言葉にされると、ずっしりと重みがある。バレエを踊る体としては、その数字が何を意味するか——それをよく知っているからこそ。

一方で、スタジオのほうでは発表会に向けた練習が加速していました。空いている時間に来られる人は来るようにと、プレッシャーとも励ましともとれる声かけがあり、レッスンの回数が増えていく。

注意をもらっても、思うように身体が動かない。

頭の中に描いているイメージと、実際の動きの乖離——そのもどかしさは、うまく言葉にできないものがありました。

術後1年1ヶ月:週4レッスン、ヘロヘロ


この頃、バレエのレッスンが週4ペースになりました。

体はへとへとです。正直に言えば、ヘロヘロ。

それでも、整体の先生に診ていただいたところ、PTの先生からも「筋肉が少し柔らかくなってきましたね」と言われるようになり、少しずつ前進していることを感じていました。

ただ、発表会が近づくにつれて、踊ること以外のことが私のストレスになっていきました。

ホールでのリハーサル。メイク。ヘアセット。

「普通に準備できれば何でもないこと」かもしれない。でも、術後の体でここまで練習を積んできた後に、これだけの準備が重なってくると——正直、かなり消耗しました。

「踊ること自体は、やりたい。でも、その周辺のことが……」

そんな複雑な気持ちを抱えながら、本番に向けて走り続けた1ヶ月でした。

術後1年2ヶ月:発表会…終わった。


やり遂げました。

本番を終えたとき、最初に感じたのは——正直、安堵でした。達成感ではなく、まず「終わった」という安心感。

リハビリは引き続き続けています。レッスン回数が増えたせいか、体重が2キロほど落ちていました。

発表会に初めて来てくれた長女から「頑張ったね」という言葉をもらいました。2回目の観覧となった次女からも、同じように。その言葉がじんわりと嬉しかった。

そして、自分でも思います。

この股関節で、よく踊ったな、と。

思うように動かない。まだ90度しか開かない。120度はまだ遠い。内転筋はまだ硬い。リハビリは続く。

それでも、人工関節を両方に入れた体で、バレエの発表会のステージに立った。
これは、間違いなく事実です。

振り返って:この半年で感じたこと


術後7ヶ月から1年2ヶ月——この期間を振り返ると、「思い通りにならない体と、どう折り合いをつけるか」を学んでいた時間だったと思います。

発表会への参加を最初は固辞した私が、「術後1年の記念に」という気持ちで気持ちを変えたこと。痛みが出れば専門家に相談すること。焦らず、でも諦めず、続けること。
「限界がある」という事実を受け入れながらも、その中でできることを積み重ねること。

バレエは、技術だけじゃない。体と対話しながら、諦めずにステージに立つこと——それもまた、バレエの一部なのかもしれない、と。

リハビリはまだ続きます。次のレッスンも、続きます。

この股関節と、もうしばらく向き合っていこうと思います。


(※人工関節の可動域や回復過程には個人差があります。気になる症状がある方は、必ず担当医・理学療法士にご相談ください。)

ABOUT ME
ピルエット(社労士&FP/Reiko)
ピルエット(社労士&FP/Reiko)
50代で熟年離婚を経験し、夢だった語学留学や資格取得に挑戦。 60代から社労士・FPとして再スタートしました。 今は美容や健康の工夫、大人バレエの挑戦、日々の小さな幸せを綴っています。