年金の受給開始年齢は、60歳から75歳までの範囲で自由に選択することが出来ます。
65歳を基準に早めに受け取る(繰り上げ)のか、後ろ倒しにして増額をねらう(繰り下げ)のか、それぞれの選択肢にはメリットとデメリットがあります。
しかし、この重要な決断は、今後のライフプランや資金計画に大きな影響を与えるため、慎重な検討が必要です。
本記事では受給開始年齢をどう選べばよいか、年金額や生活設計に与える影響についての解説と、最適な選択肢を見つけるためのヒントを提供します。
※本記事で「年金」と書いているのは老齢年金のことです。
繰り上げ受給(60歳から)のメリット・デメリット
メリット
60歳から年金を受け取り始める最大のメリットは、早くから年金収入が得られる点です。
貯蓄が少ない方や早めに生活の安定を確保したい方には安心感があります。また健康状態が良くない場合、早めに受け取ることによって長期間にわたって年金を利用できる可能性が高まります。
デメリット
60歳から早めに受け取り始めると、1ヶ月あたりの受給額が減額されます。60歳からの受給では、65歳から受け取る場合と比べて30%程度減る可能性があり、生涯の総額でも少なくなります。
そのため、長生きするほど受給額の差が大きくなります。
1962年4月1日以前に生まれた人の減額率は1ヶ月0.5%です。
2022年4月から1962年4月2日以降に生まれた人を対象に1ヶ月あたりの減額率が0.5%から0.4%に変わりました。
この変更により65歳からの年金を60歳から繰り上げて受給する場合、24%の減額となります。
繰り上げは60歳から64歳の間で請求することが可能です。
繰り上げ請求には減額以外の注意点もありますので、年金事務所で相談されることをオススメします。
65歳から受け取るメリット・デメリット
メリット
65歳から受け取る場合、標準的な金額を受け取ることができ、年金制度の設計に沿ったバランスの取れた選択と言えます。
デメリット
早く年金が必要な人にとって65歳まで待つことは、収入源がない期間をどう乗り切るかが問題となります。
また、60歳で退職する場合、その後の5年間をどのように支えるかが課題です。退職後も何らかの収入を得る方法を考える必要があるでしょう。
繰り下げ受給(70歳まで待つ)メリット・デメリット
メリット
70歳まで受給を遅らせることで、1ヶ月あたりの年金額は大幅に増額されます。65歳から受け取る場合に比べ、最大42%増額されることが見込まれています。
長生きすることが見込まれる場合や、退職後も十分な貯蓄や収入がある方にとっては、年金額を増やすことで老後の生活にゆとりが生まれます。1ヶ月あたりの増額率は0.7%です。
デメリット
70歳まで待つリスクは、受給を開始するまでの期間に予期せぬ出来事が起きる可能性がある点です。
健康状態の悪化や、予期せぬ支出が増えることもあります。
加えて、70歳以前に他の収入源がない場合、貯蓄を取り崩さざるを得なくなり、老後資金の枯渇リスクが高まることも懸念されます。
また、繰り下げによって受給金額が増えると、税金や医療保険料が高くなる可能性があります。
2022年4月以降に70歳になる1952年4月2日以降生まれの人からは75歳まで受給開始年齢が拡大されました。
この変更により65歳からの受給に比べ最大84%増額されることが見込まれます。
増額された年金を受け取りたい場合、66歳以降に請求する必要があります。66歳以降は月をまたぐごとに0.7%増額された年金を受け取ることが出来ます。
繰り下げ請求が出来るのは65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金です。生年月日によって経過的に60歳前半から受け取れる老齢厚生年金を繰り下げることは出来ません。
65歳になるまでに、他の年金制度の年金(遺族年金、障害年金)を受給する権利がある方は基本的に繰り下げ制度を使うことが出来ません。
ライフプランへの影響
年金の受給開始の選択は、あなたのライフプラン全体へ大きく影響します。早く受け取ることで安定感が得られるものの、生涯の受給額は少なくなります。
反対に受け取りを遅らせると受給額は増えますが、受給までの生活をどう支えるかが問題となります。
加えて、税金や医療保険への影響も総合的に考える必要があります。
重要なのは、あなたの健康状態、家計の状況、今後の収入の見込み、またはその他の老後資産の状況に応じて、最適なタイミングを選ぶことです。たとえば、貯蓄が十分であれば70歳まで待つのも一つの選択肢ですが、早めに安定収入を得る必要がある場合は60歳や65歳の選択も検討すべきです。
50歳以上の方は年金事務所で年金見込み額や損益分岐点を試算してもらうことが出来ます。